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駿台雑話

朝がほの花一時此時松永某とて、鈴木氏が道学の友ありけり、其人朝がほの歌とてかたりしが、自からよめる歌にや、又は鈴木氏がよめるにや、とかく両人の内にてあるべし、あさがほの花一ときも千とせ経る松にかはらぬこヽろともがな、此歌も意味ふかきやうにおぼへ侍る、昔よりあさがほおよめる歌おほけれども、大かた朝がほのあだなる事おいひて、秋のあはれおそへ、世のはかなきおしらするお趣向とする外は見へず、〈◯中略〉今松永氏が松にかはらぬ心といへるは、それにてはなかるべし、各いかヾおもひ給へる、翁〈◯室鳩巣〉は朝に道お聞て夕に死するも可なりと、いへる意とこそ思ひ侍れ、〈◯下略〉