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成形図説
二十/五穀
唐芋(からいも)〈是専俗の通称なり◯中略〉此藷春暖新芽お発す、其茎紫色お帯び、漸く蔓おなし、節あり、其節地に著ば根鬚お生じ、地につかざれば葉お生ず、葉は蕺菜(しぶき)の葉に似たるあり、又三尖お成して牽牛子葉に似たるあり、南方の暖地にては、秋淡紅花お開く、夕顔の形と相同じ、其根塊お成し、子母鉤連して五六相簇つく、其塊皮紫赤色なるもの多し、亦白あり、深紅あり、浅紅あり、淡黄あり、濃黄あり、淡紅白の二色おなすあり、形ちは円にして長し、本末皆鋭りて末には少し細鬚あり、肉の質理膩潤ありて、其色は白と黄との二つなり、気味は甘平無毒、生熟倶に食べし、〈◯中略〉凡此ものは二月なかば、園甫中日あたり宜しく、南向の暖地おえらみ深く耕し、故藁類おきりこみ、馬糞お覆ひ、地の温に和ぐ様にして、藷塊お縦に稠くうヽる也、又其半お出し、半に土おかけ置もあり、都而土お覆ふも宜し、さて上には腐りたる茅藁類お覆ひ置ば、三月に至り芽お叢生し、漸く蔓おなす、是お苗床といふ、蔓一二尺に及ころ、細雨中もしくは雨後の曇りたる日おえらみ、芽お欠とり、別に耕し拵らへ置たる畑に、二尺ばかりづヽ間お明け、横相距こと七八寸間に種べし、是おかぎうえといふ、〈苗床一歩に藷塊四五斗おうえ、一ばん苗にて二三畦にうえ及すなり、〉はじめてかぎとりたるお一ばん苗といふ、又跡に出芽したるお二ばん苗三ばん苗といふ、四月初より六月の初までは殖るなり、二三ばんの苗お種るときは、一ばん苗にて種置し蔓成長(のびたち)ぬるゆえ、是おきりても種るなり、農業全書等に、旱せば水お瀉ぐなどいへども、手広く種れば民力及ばず、故に雨後に種置時は、何様の烈日にも活(つか)ずといふことなし、如此種終りて、夏の内は其蔓の節々地に著ぬ様に、時々草お除き蔓お左右へ移し転(まは)すれば、根に力いり、塊お成こと大にして且多し、かくするお蔓反(つらかへし)といふ、其まヽにして滋蔓(しげりはびこら)しめ、節々地に著て鬚お生ずれば、根に塊少し、初種しより二三度も草お除き、蔓お移すまでにて、水お瀉ぎ養お用ること絶てなし、〈たヾ富民初苗お種るとき、一株ごとに素灰お少しづヽ根に置て種れば、塊お成こと繁くして大なりといふ、〉今北陸の農家は、甘藷の苗床おなさず、畑の耕しこしらへして、畦筋お通し、塊種一お二つ三つに引欠て、蹲鴟(さといも)うヽるやうして、土お掩おくこと也といへり、されどかくしなんは、種塊多く費て、工夫(てま)も殊にかヽりぬれば、必蔓種にしくものなし、