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重修本草綱目啓蒙
十/湿草
夏枯草 うるき〈和名抄〉 十二一重(○○○○) 一名血見愁〈古今医統〉 猪屎草〈本草原始〉 雲鷰蜜〈採取月令〉 四牛闘草〈薬性要略大全〉 鷰矣蜜〈郷薬本草〉山中陽地に生ず、方茎紫色、高さ三五寸、葉は旋覆(おぐるま)花の葉に似て粗鋸歯有、又金瘡小草葉(きらんさうの)に似て両対す、茎葉に白毛多し、三四月茎頭に穂お成し、小なる花密に綴ること二三寸、花大さ三分許、五弁にして本は筒なり、金瘡小草花に似たり、色白くして淡紫色お帯ぶ、又紫碧花白花の者あり、花終れば蕚中に小子四粒あり、熟して苗枯る、乃夏至の候なり、故に夏枯草と名く、苗枯るれば直に根より新苗お生ず、春の苗より長大なり、冬寒に逢て枯る、冬至より新苗お発し花お含み、春に至て開く、古よりうつぼぐさお以て夏枯草に充つ、今薬四に売る所の夏枯草皆うつぼぐさなり、然れどもうつぼぐさは、塗州夏枯草にして真物に非ず、稲先生の説にも、夏枯草はうつぼぐさに非ず、用て効なしと、大和本草に載す、うつぼぐさは一名すい〳〵ばな、〈江州〉すい〳〵、〈同上〉すいばな、〈佐州〉すもとり、〈濃州〉うしぼくと、〈長崎〉ひぐらし、〈予州〉しびとばな、〈和州〉しびとのまくら、〈同上〉狐のまくら、〈同上〉うばちこ、〈奥州〉うばのち、〈同上〉とりげぐさ、やりばな、まつかさぐさ、〈雲州〉山野甚多し、四時葉あり、形ち薄荷葉に似て微尖り鋸歯浅し、冬は地に就て叢生す、春已後方茎お抽で、高さ二三寸葉両対す、五月に至て六七寸、上に穂お出し、深紫色の花お開くこと二寸許、〓靭(うつぼ)の形に似たり、又深紫色にして青お帯るものあり、又淡紫色深紅色白色のものあり、此草夏枯れず、夏至以後始て花あり、夏枯草の名に称はず、然れども効用は近して代用する故に、塗州夏枯草と雲ふ、増、按に夏枯草夏至の候に枯れて、旧草脱して直に新葉お生ず、その直に新陳相代るお以て、十二一重の名あり、