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農業全書
三/菜
茄なすびに紫白青の三色あり、又丸きあり、長きあり、此内丸くして紫なるお作るべし、余はおとれり、丸きは味甘く和らかにして肉実し、料理に用ひ能煮ても、みだりにとけくだくる事なし、かうの物其外にも専ら是お用ゆべし、又長き茄子におそく老て大なるあり、是又よきたねなり、種子お収め置事、二番なりのうるはしきに札お付置、九月よく熟したるおわりて、子お水にて洗ひ、洗たるおゆり取、其まヽよくさらし乾し、さら〳〵とする程よく干たる時、収め置べし、又丸ながら庭の火たくあたりに埋み置て、春ほり出し、洗ひゆり取、灰に合せ蒔もよし、是早く萌るなり、又二つにわり、かづらなどにつらぬき、軒の下につりおきて、蒔時ぬる湯にひたし、しばし有て子お洗ひ取、灰沙に合せ蒔もよし、苗地の事、冬より度々うち、細かにこなしおきたるお、正月早くこえおうちよく〳〵こやし、細かにこなし、塊少もなくして、畦作り横三尺あまりにして、正月雪きえて蒔べし所により二月の中お以て、蒔たるもよし、又一説に、苗地おいかほどもよくこしらへ熟しおき、三月の初雨お得て蒔たるは、二月蒔たるにおとらず、却て早く生ずるものなり、或盛長の早きお望む者は、種子お灰と肥たる細土に交ぜ、ゆるりの辺り火気近くおき、又あたヽかなる日は外の日にあて、家の内にて萌たるお、世間漸く暖かになりて後、よく才覚して苗地にうつすべし、さて苗地のこしらへは、馬糞お埋みこえおうち、冬より晒し置たるに、何にてもやき草お用意し置、寒気も漸く退きたる比、土のこがるヽ程やき、細かにかきならし、むらなく蒔て、灰糞と肥土とお合せ、種子おほひ指の厚さにして、かるく践付、古むしろ古ごもにてもおほひ置、昼の間はおほひおのけ、日にあて、泔(しろみづ)に小便お少し合せ、或水糞お合せて、わらのはヽきにて、日中に小雨のふりかヽる様に、度々ふりかくれば、夕立のする心にて、苗ほどなくふとりさかへ、時ならずうへしほどなる物なり、猶暖かなる肥地、やしき内などの肥熟したるに、移しうゆれば、四月に早くなる物なり、さてうつしうゆる事、早麦お間お広く蒔て、中うちお細くしおきたるに、一本づヽうゆべき所に、穴の深さ五六寸ほどにほり、やき土お一盃入、其上より濃糞おかけおきて、さて苗のふとるにまかせて、うつしうゆべし、猶焼ごえなくては、他の糞土にても入べし、麦の中なるゆへ、うるほひなくても、昼過よりうへて、泔お少そヽぎおけば、痛む事なし、茄は移しうゆる事、少は遅くなるとも、苗よくふとり、草のせいつよくなりてうへたるは、早くあり付てさかへやすき物なり、いまだちいさくよはき苗お、いそぎて早くうへたるは、ありつきおそき物なり、すべて苗お取うゆるに、うるほひある時、ほりくいにて、根のきれぬ様にほり取べし、うるほひなくば、水おそヽぎてほり取べし、手あらく引とれば、いたみてありつきおそし、又うゆる法、茄子おうゆる麦畦は、麦お蒔時より、凡其間の能程おはかりて、たてのならびは一尺二三寸、横の間は一筋は二尺ばかり、一筋は三尺余にし、草お取糞おする時も、広き筋お通り、せばきはとほらずして、培ふ事も広きすぢばかりより、土おかい上れば、せばき筋の中は小溝と成て、うるほひおよくたもち、又は糞水おそヽぐにも、此みぞよりながし入れば、うるほひともなり、根の土広く厚ければ、わき根よくはびこり、風雨の時たおれず、其上根に日風とおらず、傍以てよくさかへしげりて、実多くなる物なり、〈但茄子一つ二つなるまでは、少土かひて、根に糞だまりお、くぼめ置、水糞と小便おたび〳〵かくべし、小便は五日に一度ほどかくべし、凡なすび二つ三つもとる時分、草だち大きになりて後、右にいふご〉〈とく、ひろみぞのかたより、おほく土かふべし、小便は秋までもかけたるがよし、〉茄子たばこなど、葉ひろくさかへ、上の重き物の類は、何れも木の動く事お嫌ふゆべ、培ふ事お厚くし、少は堅くすべし、又麦おまかず菜園などにうゆる事は、細雨の中か、晴たる晩方、苗の土ぎはの所お紙にて巻てうゆべし、日おほひは、ふきの葉、桐の葉、何にても少しおほひてよし、猶こもなどにておほふは、上もなく宜し、覆よければ旱にうへてもいたまず、茄子は肥過てあしき事なきゆへ、夏中は雲に及ばず秋に成ても、糞水お五七日もおきて、たび〳〵そヽぐべし、しかればます〳〵さかへ実多し、又雲、苗お移しうゆる時、立根の先お少ばかりきりたるは、わき根に力入てよく有付物なり、又は立根の先長ければ、底のにが土に当りて、痛みかるヽ事あり、いか様長き立根あるおば、少ばかりづヽ切てうゆべし、糞しお用る事は、くろきしん葉少出て、よくあり付たるお見て、根のわきおかきくぼめ、鰯にても油糟にても入て、土おおほひ置、ふとるに随て段々多く入べし、されども二色の糞の求めなりがたくば、わきお能程ほり、粉糞お入、其上に濃糞度々かくべし、又硫黄お粉にして、根のわきに少入れば、よくなりてふとく、味も常にまされり、凡一本に豆粒ほど置とあれども、薄茶一服程も入べし、甚験あるよし、農書に記せり、茄子は小き時つよき雨にあへば、根の下の土おたヽき上て、葉おけがせば、痛む事あり、うゆる時大雨ならばうゆべからず、苗お種て後、根の廻りの土おきれいにおし付て置べし、切虫の用心ともなるべし、又茄子お区うへする事は、冬の中うゆべき畠の中に、はヾ二尺四方、ふかさ一尺四五寸に穴おほり、其中に牛馬糞、其外何にてもこやしに成べき物お半分も入、其上に土お一重かけ、其上より又濃糞お多く入、土おおほひ置て、さて雪のふりつみたるお、穴の所にかきあつめて、上おふみ付おき、春苗のふとるお待て、うゆる事前のごとし、一区に三四本うゆれば、草立の高き事五六尺もありて、枝葉殊にさかへ、其実り勝れて大きにて、甚多くなるなり、芋瓜などもかくのごとくしてうゆる法あり、土地のすくなき所にて、取分用てよき法なり、