[p.0524][p.0525]
嬉遊笑覧
十上/飲食
初ものお賞すること、昔も今もかはる事なし、唯賞するものとさもなき物と有り、茄子は昔はめでたる物なり、懐子集、庄屋さへやく田楽お食かねてと雲句に、〈意翔〉初茄子とて守護にとらるヽ、寛永発句帳に、〈幸和〉初なりや先是式のさヽげ物、〈此句瓜茄子の句中にあり、其頃賄賂お是式と雲り、〉永代蔵〈貞享五年〉東寺辺りの里人、茄子の初生(なり)お目籠に入て売来るお、七十五日の齢、これ楽みの一つは二文、二つは三文に直段お定めと雲り、これ其頃初茄子の価なり、五元集、さみだれや酒匂でくさる初茄子、宝永ごろの吟なるべし、そのかみ駿河より五月出すお初茄子とす、今は年の寒暖に拘らず、三月に砂村より出るなり、初茄子の賞玩こヽのみにも非ず、東京夢華録大内の条下に、其歳時果瓜蔬茄新上市、并茄狐之類新出、毎対可直三五十千、諸閤分争以貴価取之、また秋茄子わさヽのかすにつけまぜてよめにはくれじ架におくとも、といへる古諺あり、望一後度千句のこれるもはや末なりの秋茄子にくまれにたる娶がしうとめ、大弊に、なれ〳〵なすび、せどのやのなすび、ならねばよめの名のたつに、洛陽集に、切形や青梅水に茄子浮〈元好〉塩鯨茄子の浪に寄にけり、〈友吉〉今まつもどきといふやうに切たるなるべし、松もどきとは、松茸に似せて切たるなり、又丸ながら竪にきりめお多く付る茶筅茄子と雲ふ、所見なけれど、近頃の名には有べからず、又竪に二つにわりてきり目付たるは、〓の花びらに似たり、これお〓花茄子といへり、矢の根鍛冶後集、和尚への馳走煮物もれんげ茄子、篗絨輪、伊勢講は料理にも忌〓花茄子、といふ付句あり、