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二物考
馬鈴薯 培養八十八夜頃に、此お種ゆべき地お耕し、其土塊お細砕し、其後馬鈴薯お取り、毎処二三塊づヽ種えて、其上に軽く土お覆ひ、逐次に此の如くにして種るなり、其法常に甘藷お種る法と同じ、又此薯は地お柬むに及ばず、田畔路傍砂石交錯する地、其外他の穀類播殖に妨害とならざる処に、培養す可し、又其性寒に堪ゆるお以て、山野に種るも佳なり、大抵播種より三十日計お経れば、嫩芽お萌出し、茎お生じ蔓生するなり、蔓二尺余に至れば、其端末は残して、其中央の処に軽く土お覆ふ可し、此より新根お出し蔓お生ずるなり、凡そ此の如くにして、茎葉次第に蕃茂するに至れば、一根お以て数十塊の薯お得るなり、但し新根の薯は其数少なく、其形小にして又水気多し、旧根の繊根に附く者は、連珠の如く数十塊攅簇して、其形も太く、且つ滋味多し、故に之お上とす、又之お以て明年の種子となす可し、和蘭地方に於ては、一根お以て、百塊若くは百四五十塊の薯お得ると雲ふ、然れども本邦に於ては、大率一根お以て、四五十塊より六七十塊に至るお極とす、