[p.0532][p.0533]
二物考
馬鈴薯 食用新生の者は直ちに煮熟し、又は蒸熟し用ゆ、若し薟味あるときは、先づ灰汁に投入して其気お去り、又乾固する者は、温湯に浸し、軟和するに至り、其後煮蒸して、或は単味之お食とし、或は飯に和して之お用ひ、或は羹に調し、菜蔬に代て之お用ゆ、其他人の好む所に従て用法頗る多し、〈◯中略〉製粉薯粉は、葛粉蕨粉と同じ、此お製するの法、此薯お取り、水に浸すこと凡そ六時にして取り出し、其皮お去り、又水に浸すこと一二時にして、後切りて薄片となし、臼に入れ搗煉して餅の如くならしめ、水お加えて希解し、致布お以て濾過し、白汁お取り、又其滓お臼に入れ、更に搗煉し、又水お加て撹動し、濾過して白汁お絞り取り、幾次も此の如くにして、白汁出でざるお度とし、其汁お沈定し、薯粉悉く器底に沈著するお俟て、徐々に其上清(/うはすみ)お傾け出し、又水お加て撹動し、又沈定するお俟て、其上清お傾け去り、幾次も此の如くになして、其上清無色無味に至るお度とし、水気お去り太陽に曝し、或は微火に上せ乾かすなり、用法葛粉蕨粉の如くにして、此に勝ること万々なりと雲ふ、醸酒馬鈴薯も亦甘藷の如く、製して酒となす可し、但し濁醪となしては用ひ難し、蒸露して火酒となす可し、然るときは其性猛烈其味芳辛にして、上好の琉球(/あはもり)酒に減ぜざるなり、