[p.0549][p.0550]
落穂集追加

多葉粉初りの事問曰、何れの御代の義に有之や、多葉粉お作る義、諸国共に御法度被仰出、御城内にては、多葉粉お給る義、御制禁堅被仰出と申触るヽは、其通りの義にて有之や、答曰、我等承り及候は、多葉粉御制禁の義は、台徳院様〈◯徳川秀忠〉御代の義に有之由、多葉粉作り申間敷旨、諸国へ被仰出お以て、向後御城内に於ては、多葉粉給る義、堅御法度被仰出るヽ由、其砌之義にも有之候哉、御城にて御番衆の湯呑所へ各々寄り集り、多葉粉お呑被居るヽ所へ、土井大炊頭殿御老中の節、ふと御越の義有之、何も驚天被致、手ん手に多葉粉道具お取りかくし候お、大炊頭殿見給ふに付、御番衆に、其御ふすまお立て被申候様にと御申、則著座有りて、隻今何れもの呑れし物お、我等へも振舞れ候様にと御申され候へば、何れも迷惑被致、兎角の挨拶無く、赤面の体にて居られければ、達て所望に付、無是非袖の中より多葉粉入きせる抔取り出して差上られければ、大炊頭殿被取て、二三ふくも御呑み、不存寄珍ら敷物お給べ、過分也とて座お立て又立かへり、今日の義は、手前も各も同前の事なり、重てより必御無用也、御上にて殊之外御嫌ひ被遊候事に候へば、此以後は無用にと御申有るに付、其段内々にて入申送となり、其以後湯呑所の多葉粉、ひしと相止むとなり、