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烟草百首
これ〈◯和漢三才図会〉正徳二年の印本にて、いまだ此頃は常州野州の産は著ざるなり、本朝食鑑に、水戸赤土の産お著、然る時は天正の頃、たばこ島より渡て、大隅国囎唹郡国府へ植、又慶長頃、西洋の種お長崎へ栽しものか、其後丹波の笹山、摂州服部、和泉河内、及中国筋、信州埴科郡、甲州小松、上州山名館、奥州辺迄、諸国種せざるといふ事なし、野州常州(○○○○)は、遥後年の産地なり、江戸にておほく吸へるところの、武州秩父(○○)の名葉出初しは、四十年以来、又信州生坂(○○)は、三十年にたらず、昔服部お第一の名産とすれども、あじはひ辛烈故、今は国府(○○)お極上品となす、芬郁なるが故〈価も高し〉なり、和柔(やはらか)お好めるものは館お良とす、辛とも香気お好者は舞留お上品とす、