[p.0556][p.0557]
烟草百首
頭書
烟草諸国名産大隅〈囎唹郡〉国府 砂走 車田 武元 竜王 伊勢け屋舗 砂け町大隅の名産にて諸葉の最上とす、薫り高く風味佳、国分寺の境内に産する葉、勝れて美味也、其故に国分の名あり、産する地聊なる故販売するに足ず、皆囎唹郡の内より出る、薩摩の産といふは誤也、島国府と雲は、薩摩の国の部也、葉形も賤く下品とす、一体此国暖なる故、中春種蒔、夏土用明頃曝乾、初秋には江戸へ積出、故に葉に粘脂なく、火お点ずるにうつりよく消ざるお賞す、三四年囲置、古葉(ひねは)になる時は薫り勝れて美也、価高し、葉に力ありて、細刻するに砕けざる故髢(かもじ)たばこの名あり、長崎は初て栽し土地なれども、至て下品なり、日向の葉形に似たり、摂津〈島下郡〉服部 塚脇 西河原山城〈乙訓郡〉石津丹波〈桑田郡〉山本国府に続きたる名葉にて、奇香異味国分舞留美お競、然といへども此葉甚辛烈(きつき)故、人是お好ず、近来弱和(やはらかき)お吸所似(ゆえ)なり、上お留葉(とめは)と雲、〈至てきつし〉中お舞葉(まいは)と雲、下お薄舞(うすまい)と雲、上土地に産すれば、葉に力なくとも薫有、畠地へ産するお上品として俗に舞と雲、田地へ産するお下品にして服部(はつとり)と雲、下品なるは火お点ずるに忽滅、都て我国は、何地にても田へ産る烟草は皆下品也、稲お耕すに聊障なし、舞留上中下の葉、ともに五年七年の古葉お賞美す、殊に止葉は数年囲置しお上品とす、気味辛といへども香気強、口中清潔にして水お嗽がごとし、薫〈◯橘〉考るに、中葉未熟せずして枯萎する者味薄けれども芬郁也、これお舞と雲、〈葉の表横茎に搦みて見ゆ〉中葉下力なきお婆娑(ばさ)と雲、俗にばヽあとも雲、舞といふ名あるによりて、姫の老たる意なるべし、〈◯中略〉烟草は味辛く気温にして毒ありと、諸書に見ゆれども、一体異国の烟草は、葉に力ありて辛烈(からき)故に毒多し、東洋の烟草は人命お助るほどの能あるが故に、又毒もあるべし、我邦のたばこは、能もなく毒もなし、明和安永の頃までは、辛お上品とせしが、近来作方肥お撰み、和柔に乾晒す、中にも館は葉に力ありて、和らかなる名葉なれば、日本の中にても、江戸の烟草は名産なり、都て関西の品はきつく、関東は和らかなり、蛮国にても東洋は勝れて、西洋は劣といふ、唐土にても閩の産は上品とす、燕の産は中品、浙江石門は下品なりといふ、〈◯中略〉