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烟草百首
頭書
烟草和漢ともに禁むること、一体此草腴田にあらざれば味悪、これお種するに、若去年の畠に植る時は、則苗短く葉微にして、枯葉多く色浅、味宜からず、年々畠お易肥お入、新地に種する時は、則葉の実入よく、力ありて薫よし、至て地所お荒す草故、五穀の妨おなす、殊に日用一掬の糧にもならざれば、天下に令して、是お種することお禁ず、本朝は田地異国に勝れて、米穀は悉多、新地年々増、中にも常州水戸、武州秩父山は、田面少く畑地多、山々谷々、新地お開きてこの草お種するに、地所にあひけるや、季夏のころは、茎長さ五六尺に延、葉三十枚余お生ず、初冬に至て、東都へ出し販売するに、五穀に利お倍し、其国潤へる故、自然と盛なりしも愛度(めてたき)御代の験なるべし、