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閑際筆記

煙草此お多波古と雲、林羅浮、以本草に載所の莨菪と為なり、未知然や否や、大清人呉興沈穆が著所の本草洞詮に、称之煙草と為、其言に曰、煙草味辛気温毒あり、寒湿痹お治す、胸中の痞隔お消(けし)、経絡の結滞お開、然に臓腑経絡、皆気お胃に廩く、煙胃中に入、頃刻にして身に周(あまねし)、是以気道頓に開通、体倶快(こヽろよし)、然ども火元気と共立ず、人の元気、凱此邪火終日薫灼するに堪や、真気日に衰、陰血日に涸、暗に天年お損ずれども、人不覚耳と、窃謂洞詮に言所、略其能お説と雖、実は則人おして其毒お知ら俾(しめん)と欲而已、凱須臾の快お為て、終身之患お遺哉、且夫人初て吸之、眩瞀ざること鮮(すくなし)、煙管の中に油煤あるお禽虫誤て甜之即死、峻烈如此、咸常に見所なり、曷洞詮に言所お俟て、而後多毒お知哉、或人曰、豆醤能煙草の毒お解、故に吸者病お不成と、然ども豆醤の力、安其峻烈の気に克ことお得、銖積寸累、遂為大患必矣、