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兎園小説
八集
文政八年八月兎園会京 角鹿比豆流筑前御儒者井上佐市より、京都若槻幾斉翁へ之書状奥に、怪談らしく思召さるべく候へ共、実事に付、為御慰申上候、去る六月初、弊邑管内宗像郡初の浦と申す所の山甫に、煙草お作り置候処、何物かあらし候者有之候に付、百姓共申合、獼猴之所為にて可有御座候間、逐払可申とて、数十人一山に入候処、獼猴五十余群居候に付、扠こそと能々見候処、中に長一丈二三尺、囲一尺五六寸の大蛇お取り囲み、方に闘居申候、猿ども口と手に、煙草の葉お持ち、蛇前猿にかヽり候へば、後猿蛇尾お曳、其闘果しなき模様に御座候故、所之猟師、鳥銃にて蛇お打殺し申候、猴は火音に驚き逃去申候、猴共蛇の煙草お嫌ひ候儀お能く存候事驚入申候、〈◯中略〉其所は治下より八里計の処にて、うきたる儀にては無御座候、是は去年申七月の書状なり 七月念三