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和事始
四/飲食
烟草慶長十年の比ほひ、始て日本に渡る、そのヽち諸人これお賞飲す〈◯中略〉今俗に飲食のうちにも、ことに酒、茶、烟草の三飲は、貴となく賤となく、智あるもおろかなるも、わきてこれお賞す、されば酒は毒ありといへども、少く飲時は、人に益ある事医書に見えたり、ことに聖人もこれおすて給はず、茶は渇お潤し、煩膩お去の能あり、たヾ烟草のみ、益なく害多き事これに過たるものなし、俗輩奴婢のこれお吮は責るにたらず、士君子たる人の蛮国の俗おしたひ、身に害あるものおこのみ賞する事は、甚ひが事成べし、元和元年六月廿八日、将軍家より天下に命お下して、烟草お吸事お禁じ給ひしは、理ある御おきてなりしが、今其禁の弛げるこそなげかしけれ、