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安斎随筆
前編十一
煙草 烟草は古代なき物也、慶長の頃、蛮国より渡り来ると雲伝たり、是お不好人は、毒物也とて、其害お論ずる人もあり、酒お多く呑人は、酒毒にて終に内損の病になり、或は吐血、或は浮腫、或は黄疸等にて死する人あり、烟草お好て烟毒に中り内損し、病お発して死したる人お不見不聞、然れば毒物に非ず、良物にも非ず、烟お吸て試るに、読書写字に而、心巻み気鬱したる時には気お運し鬱お開くお覚ゆ、食後に煙お吸へば、口中爽になるお覚ゆ、此外には何の事もなし、猶無益の物也、