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閑田次筆

烟草は唐山も此方も、なべて二百年来、もはら人の嗜むものにて、一たび吸ては、忘れがたきゆえに、相思草ともいへり、蛮国より出て世に弘まれるにて、本草備要などにも是お出して利害お論じ、害は多く益は鮮きさまに書り、然も極老まで嗜む人さしたる害もなし、おのれも亦此たぐひなり、例せば茄子は食物本草の類、害多きよしに記せれども、本邦には中夏の比めづらしとてもてはやすより、晩秋に至り、或は糠に漬しては終年喰へども、一人も此害おおぼえたる人なし、脾胃に馴ては害なきものにや、唐山の人の獣肉お常に喰ひて其害おしらず、かへりて本邦の米の美味に過て、泥滞おおぼゆるといへるに同じ、