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昔々物語
一むかしは懐中たばこと雲事なし、よくともあしくとも、亭主のたばこ盆に有お呑なり、のみやうも、亭主座敷へ出る迄は呑ず、亭主物語して、たばこ参れと進むれば、客は先御亭主より参れと、盃茶の如く二三度は言、其時亭主鼻紙おへぎて、きせるのつば(○○)おはづし、きせるお拭ひ、是にてまいれと差出す、客戴きて呑、たばこ能はほむる、一ふくも二ふくも吸、つばかけて我前に置、帰る時は鼻紙にて拭ひ、たばこ盆へ入る、猶ぬぐふ時、亭主其儘差置れと雲、若亭主頭役か親かたなれば、のめといはるヽとも給ずとて不給、其比かくれなき奴といはるヽ人も、六ほううでだて我意お尽す人も、慇勤の座敷又は親方老人の前にて、たばこ呑人なし、