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ひとりね

たばこのむに、輪おいくつとなく吹く人あり、壁に針お打て、それに輪おかける人あり、はじめ一つ吹出して、其内おまた吹様に、ちいさく輪お吹人有、或は又けむりお外へ出さず、ことごとく内へ呑て、ほの〴〵とあかしの浦の朝霧にと、一首よみしまいて、けむりお出す人有、今のごとく引て鼻の元より出す人有、女郎様などの、鼻の穴より吹出し給はんは、いまり焼の香炉の如く、見苦しなんどはおろかの事なり、けふもさめはてぬべし、〈◯中略〉余はきらひにて、たばこのむことならねども、人の呑おいとふにしはあらぬに、人によりて手まへの嫌ひなれば、人の呑もいとふ生れ有、やまひといへども心つくべし、心つくれば其儘なおるもの也、我まヽよりおこることなり、