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浚明院殿御実紀附録

弘福寺のほとりお過させ玉ふことのありしに、その辺の村長中田彦右衛門といへる翁、なにとかして御こヽろに応ずるばかりのこと設て、御覧に備むとて、夏菊の花と曼陀羅花とお寺内に植置て見せ奉りしかば、めで興じ玉ひ、曼陀羅花は実一つ摘てもちかへらせ玉ひしかば、彼辺の者どもいと有がたく忝き事に申伝へたり、何事もわざとこヽろお用ひ設たることは、かりそめにはせさせ玉はずといへり、これよりして曼陀羅花は、江戸にもてはやすことヽなれりしとぞ、