今昔物語

十三

陸奥国法花最勝二人持者語第四十今昔、陸奥の国に二人の僧有けり、一人は最勝王経お持つ、名お光勝と雲ふ、〈◯此間恐有脱文〉本興福寺の僧也、此の国本の生国なるに依て、各本寺お去て来り住す、此の二人の〓人、皆心直く身清くして、各法花最勝お持て霊験お施す、〈◯中略〉而るに光勝雲く、此の二の経〈◯最勝王経、法花経、〉何れか勝れ給へる、勝負お可知し、若し法花の験勝れ給へらば、我れ最勝お棄てヽ法花に随はむ、若し亦最勝の験勝れ給へらば、法蓮法花お棄てヽ最勝お可持しと、如此く雲へども、法蓮更に此れお執する心無し、光勝亦雲く、然らば我等二人各一町の田お作て、年作の勝劣に依て、二の経の験の勝劣お可知しと、郷の人此の事お聞て、各一町の田の同程なるお、二人の〓に預けつ、而るに光勝〓此の田に水お入れて、心お至して最勝に申して雲く、経の威力に依て、種お不蒔ず、苗お不植ずして年作お令増め給へと祈請して、田お作るに、一町の田の苗等くして茂り生たる事無並し、日お経月お重ねて、稔ひ豊なる事勝れたり、法蓮〓の田は作る事も無く、心の如く入るヽ人も無くして荒れて草多かり、然れば馬牛心に任せて、田の中に入て食み遊ぶ、国の内の上中下の人此れお見て、最勝の〓お貴び、法花の〓お軽しむ、而る間七月の上旬に、法花の〓の田一町が中央に、狐一本生たり、此の狐漸く見れば、枝八方に指て、普く一町に敷満たり、高き茎有りて隙無し、二三日計お経て、花開て実成れり、一々の狐お見るに、大なる事壺の如くして、隙無く並び臥たり、此れお見るに付ても、人皆最勝の〓お讚む、法花の〓田の狐お見て、奇異の思ひお成して、一狐お取て、破て其の中お見るに、精たる米満て有り、粒大にして、白き事雪の如し、〓人此れお見て希有也と思て、斗お以て此れお量るに一の狐の中に、五斗の白米有り、亦他の狐お破て見るに、毎狐に皆如此し、援に法蓮〓喜び悲て、郷の諸の人に告て、此れお令見む、其後先づ此の白米お仏経に供養し、諸の僧お請じて令食む、又一果の狐お、光勝〓の房に送り遣る、光勝〓此れお見て、妬みの心有と雲へども、法花の威力お見て悲み貴て、法蓮〓お軽めつる事お悔て返て随ぬ、即ち行て礼拝して懺悔しけり、法蓮〓其の狐の米お以て、国の内の道俗男女に施し与ふ、人皆心に任せて荷ひ取る、然れども狐尚十二月に至るまで更に不枯ずして、取るに随て多く成にけり、此れお見聞く人、法花経の威力の殊勝なる事お知て、法蓮〓お帰依しけりとなむ、語り伝へたるとや、