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安斎随筆
前編一
ほぞち 清慎公の集に雲、女御すの子みかふし(御隔子)おろしたるまぎれにうせたれば、ぬす人はほぞちお見ても雨ふればほしうりとてや取かくすらん和名抄に、熟瓜和名保曾知、俗用熟瓜二字、或説極て熟蒂落の義也とあり、ほぞちはほぞおちの略語にて、うりの至極うみたるは、おのづからほぞはなれ落るゆへほぞちと雲也、是今俗にまくわうりといふもの也、まくわうりといふお、甜瓜の本名と心得は誤なり、美濃国本巣の郡真桑といふ地所より作る甜瓜お、真桑瓜といふ、味よきゆへ賞する也、他所にて作りたるお真桑瓜といふは非也、甜瓜と書てからうりとよむ、唯うりと計も雲也、白瓜きうり其外さま〴〵の瓜と名付る物多き中に、唯甜瓜のみおうりといふ事は、花もさま〴〵多き中に、桜のみ花といふが如し、又かな文字にて瓜お書くには、うりと書ずしてふりと書事、かなづかひの習也といふ説あり、甚あやまり也、ふの字お上に置て、うとよむ古例なし、和名抄に宇利と書れば、うりと書お本とすべし、定家仮名遣ひなどヽ雲俗書は、日本紀、古事記、万葉集、其外の古書のかなづかひと相違する事、俗説は取にたらず、