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嬉遊笑覧
十上/飲食
卑うして便利なる物は、冬瓜のきり売なり、武野俗談に、本所三つ目寄合辻番のものに、仁右衛門といへる者、西瓜の裁売より思ひ付て、冬瓜おたち売にして、一銭づヽに裏屋の者に売たり、大にはやりて冬瓜仁右衛門と異名おとりしとなむ、これ元文寛保ごろの事なり、又或人語りけるは浅草瓦町に大和屋某といふ者、文魚とかいひて、人の知たる放蕩ものあり、その辺に冬瓜のきり売来りければ、其荷へるお残らず買ひていひけるやう、此辺にかヽる物もてくるは土地の恥なり、重ねて売に来ば、其儘にはおかじとて帰したりとか、いと〳〵おこがまし、