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農業全書
三/菜
瓜之類〈甜瓜、菜瓜、越瓜、胡瓜、冬瓜、西瓜、南瓜、糸瓜、狐瓜、〉瓜に大小あり、小き物甘く、大きなる物淡(あは)し、甜瓜甘瓜と雲、唐瓜といふ、〈◯中略〉種子お収め置く事は、さかりの熟瓜の味勝れたるお、あとさきお切さり中程の実ばかりお取て、段々灰にまぜ、多くあつめおきて後、ゆかきに入、清く洗ひ、粘り気少もなく成たる時、浮きたるおさり、なる程よく干して、布の袋か箱に入おさめ置べし、若其まヽあとさきのたねも共にうゆるか、本なり、又は末なりのたねお用れば、必たねがはりする物なれば、中なりの味よく、形よきおもちゆべし、さきの方の子は瓜短し、本の方の子は、口ゆがみ曲りて細し、又種子お収る法、瓜お食して勝れて、甜きおえらび、すりぬかにまぜて、日に干し晒して、揉てぬかと粃お簸去て、おさめ置もよし、瓜お植る地の事、黒地赤土黄色の、少は沙交りて光色ありて、粘り気すくなきがよし、さのみ肥たるお好ず、土性よく強く湿気はなくして、旱に水お引に便りよきおえらぶべし、土地肥和らかにして、ふくやかなるは、よくさかへふとるといへども、味よからず、瓜お作るべき地は、前年に小豆お作りたるよし、其次は黍跡もよし、冬より耕し、雪霜にさらし、幾度もうちこなし置べし、〈◯中略〉さて根のわきおたびたび打こなし、心葉(しんは)出る時、四五寸わきに、手のはらほど少しながく穴おなし、但深さ二寸余り、其中へ濃糞のよく熟したるお、一盃入干付置、其後やがて土おおほひ、又五七日も間お置て、右の所より五六寸も遠のけて穴お広くし、糞お入、土お覆ふこと前のごとくし、又其後も段々かくのごとくすべし、凡かやうに、四方に穴おなし、先四度入るお中分とするなり、又糞は二番までは桶糞お用ひ、其後は廻りお丸くほりまはし、油糟お入べし、かくのごとくする事、二三遍なれば、瓜の味勝れてよき物なり、総じて糞お入るには、うへ物のわき根のさきと、こえの気と五六日も過て後行合心得するものなり、急に根の上にかくれば、却て痛みくせ付物なり、さきお留る事は、三葉四葉の時しんおつみさるべし、長くのばすべからず、さて葉の間より出る枝お、四方八方へ手くばりするなり、其蔓又四五葉の付たる時、各さきお摘去るべし、此度出るつるになる瓜よし、もとの一番づるには、よき瓜はならぬ物なり、枝ごとに二つばかり瓜のなり花あるお見て、又さきお留るもよし、とかく初め終り糸のごときつるの出るお見て、其後梢(こづえ)おつみ去べし、凡枝ごとに葉おつくる事、四つ五つには過べからず、若し又なり花もなき細きよはきつる間(あひ)に出るおば、土ぎはより切て捨べし、此つるにはたとひなり付ても、用に立べからず、其まヽ置ば是に精ぬけて、残るつるまで妨る物なり、総じて瓜は一区(まち)に一本づヽ立置くべしといへども、畦の広さと、間の遠近によりて二本宛、或一まちは一本、一まちには二本おきたるもよし、大かたの畦にては、二本の上は必おくべからず、つるつよくしてうすきが、枝ごとによくなる物なり、しげくもつれあひぬれば、いか程こやし手入おしても、よき瓜ならぬ物なり、其上永雨旱には早く痛む物なれば、つるのしげからずすくやかにて、なり付たるは、瓜のなりよく疵なく、十分熟し落るなり、瓜の多くなる事お好みて、つる数多く生立(そだて)おきたるは、必うるはしくなりのよき瓜はならぬ物なり〈◯中略〉又東寺鳥羽にて瓜お作る法、たねお取おく事右に同じ、うゆる時分の事、二月の中より十日ばかりお定る時とするといへども、其年の寒暖又は霜の考へおして、少のさしひきはあるべし、畦作り、横はヾ一間、溝一尺余、横一間の内、両方の端に少よせて、竪筋おかき、麦お蒔置、中のおきたるところお冬より深く打返しさらし、春に成てよくこなし、三尺づヽ間お置て、さし渡し五六寸に小まちお作り、手にて少たヽき付、わきの地よりは少高く成て、水たまりなきほどにして、其小区の中に、たねお十粒ばかりばらりと蒔、其上に片手一盃ほど沙土おおほひ、生そろひて少づヽ間引、心葉二つ出るまで、段々間引て、心葉ふとく成てより、中にて性の強く大きくなるお一本おきて、残は皆ぬき捨べし、〈右は上方にて上手の作る法也、よのつねの手入にては、一くろに瓜二三本うゆべし、◯中略〉菜瓜其作りやう、甘瓜に同じ、越瓜越瓜又白瓜とも雲、〈◯中略〉地のこしらへ区作り甘瓜に同じ、二月上旬早くうへて、四月取糟に漬、其外菜の絶間に出来て、取分賞玩なり、色白きゆへ、是お古来白瓜と雲ならはせり、南向の暖かなる所おえらびて、一しほ早く作るべし、〈◯中略〉黄瓜黄瓜又の名は胡瓜、〈◯中略〉うへ様大かた菜園の廻りなど、冬より地おこしらへおき、種子お下す事、正月晦日、又は二月も三月も晦日にうへて、土お少おほひ、或灰糞おおほひたるは猶よし、但きうりは早きお専にする物なれば、なるほど早くうゆべし、又所によりて多く作る事は、甘瓜のごとく区(まち)うへにし、こやしおよくすれば、過分になるものなり、さきおとめ手くばり、其外甘瓜にかはる事なし、たねにおく物は中なりよし、本なりは子少なし、うへておほくならず、冬瓜冬瓜うゆる法、灰に小便おうちしめし置て、是お泥とかきまぜ、地に厚くしき、はヾ二尺〈ばかりに筋お切、間四五寸ほどに、〉一粒づヽ蒔、たねの上にも又右の灰ごえお厚くおほひ、水おそヽぎ置て、其後又水糞おそそぐべし、乾く時は、水おそヽぎたるよし、芽立灰おいたヾきて出るお見て、灰おもみくだき、根のわきに覆ふべし、其後も糞水おそヽぎ、三月中旬苗ふとく成て移しうゆべし、うゆる地の事、畦のはヾ五尺ばかりに作り、又其間お四五尺おきて穴お作り、肥土お入置、雨お見て一本づヽ土おつけて、ほり取てうゆべし、灰糞お多く置、水ごえは度々そヽぐべし、さてつるながく出るお、棚おかき引上おくべし、又地にはヽせたるもよし、是も柴などお立て手おとらすべし、凡黄瓜とかはる事なし、