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長崎夜話草

長崎土産物南瓜 紅毛詞ぼうぶらといふ、此種唐土日本ともに、亜媽港呂宋等の南蛮国より伝へたり、長崎にも天正年中より普ねく農家に造り、唐人紅毛に売て生計とす、しかれども本草綱目等にも、毒ありて人に益なきよし見へたれば、恐れて世に食する人すくなかりし、近世は諸国に流布して、人毎に食すといへ共、其害ある事おしらず、民家常に食して朝夕の助となれり、是お食して害ありしといふお尋るに、みな肉食の祟りにて、南瓜の祟りにはあらず、牛羊豬肉等お加へ煮て、甚だ過食し、又は熱酒お飲るに依て、食滞諸病お生ぜし時は、即南瓜の毒なりといひて、肉食酒飲の毒なりし事お察せず、山家の民は、たヾ南瓜一味あるひは麦粉餅お合せ煮て喰ふといへ共、過食のとがめもなく、病気お生ぜし事おしらず、本草綱目時代までは、いまだ南瓜の性詳かに知者すくなかりしにや、