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広益国産考

王瓜〈ひさごうり、たまづさ、◯中略〉関東などにて、此実おとり、つきつぶして土鍋に入、酒お加へ煮て貯へおき、婦人などの胼にぬれば忽ち治し、痛お忘るヽといふ、又此根より取たる粉に、竜脳お少し加へ匂ひおつけ、菊童と名づけ粥ぐ家あり、夏は婦人もとめて白粉の代りに用ふるに、面皰(にきび)そばかすお治し、その外顔のできものお治するといへり、もつとも若き婦人は白粉下にぬりて、其上におしろいおぬるに、きめおこまかにし艶お出すといへり、又老婦は此粉ばかりおぬりてふきとれば、顔のきめこまかになり、白粉お付たるやうにして、おしろいのごとく白き粉うくことなしとて専ら用ふ、是は江戸に多く用ひて、いまだ京大坂にても専ら用ふることおきかず、又此瓜お日にほし貯へおき、婦人顔おあらふとき、糠の中にまじへあらへば、きめお細にし、顔にできもの生ぜずといへり、殊に薬種ともなれば、左に功能おあげ、根お掘て粉に製し、粕は荒年の備ともなれることおのぶる也、根お掘事并に製法根お掘旬は、九十月より冬一ぱい、翌正月までに掘べし、夏なれば粉至て少し、掘には其蔓おたぐり、尖鍬にてそろ〳〵わきの土おほり、根に疵付ぬやう掘べし、さて掘て家に持かへり、水にてあらひ、平面の広き石の上にのせ、槌か又は樫の棒もて、弐人向ひあひて打べし、至つて粉の沢山なるものゆえ、白き汁顔衣類にかヽるものなれば、前に筵切やうのものおあてヽ叩くべし、能ひしぎて半切桶やうの物に入おき、夫より四斗樽やうの桶の口に〓おのせ、其中にひしぎたる根お入、壱人は檜杓おもて水おかけ、壱人は両手にてもむべし、さすれば粉は水にて下へもり、粕の筋は〓にのこる也、よくしぼり取又入て、右のごとくしぼり終りて、又別桶に木綿の袋おすけ、其中に右の水おくみ込み、袋おふれば、袋の中に細なる粕たまる也、悉く右のごとく仕終らば、右水は其まヽに置、日にほし貯ふべし、荒年の時は、是お細にきざみ、碓にてつき粉となし、麦きびの粉など合して、だんごとし食してよし、扠右こしたる水は上の方すみて、粉は底におりたまる也、そのとき上水は桶おかたむけすたみすて、又水お入、竹の棒おもてまぜて、又一日も置て、元のごとく上水の澄たるおすたみて、又水お入かきまずること四五度すべし、さすれば溜りたる粉ますます白く、おしろいのごとくなるなり、終りには猶よく上水おすたみ捨、底なる粉お庖丁おもて起しとり、糀ぶたやうのものに入、日に乾べし、則王瓜の粉にして、江戸にて菊童といへる家にて粥ぐ、おしろいしたと名付るもの是なり、