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成形図説
二十/五穀
伊曾仁〈即胡麻也、蓋古名と雲、未考得ず、〉宇呉麻〈和名抄引本草注、音五馬、訛雲宇古末、按に胡お濁音に読は、郡名考に、上野国多胡郡の胡音如呉とある類なり、又胡麻唐音うーまー、しからば宇は胡の唐音にして、此間に元より有来る胡麻の外に、舶来の種お指して宇胡麻といひしお、後は音便に従て呉麻とのみ呼びしとは見えたり、〉 炒荏(いりえ)〈胡麻の実炒ざれば宜しからざるの実言也◯中略〉呉麻てふ名上世には聞えず、式令の頃は専用ひられて、奉繕にも供へき、新撰字鏡に、青蘘お胡麻葉と訓たれば、いと早く胡麻の名はありけらし、今尚山野自生のものありて実お成せり、後に外域より貢れるが、子も大きく巨勝などいひし類にて、且其功能等の説よろこびて、食料に用ひしにや、西土も如斯ぞありぬらし、素問経雲、麻麦稷黍豆為五穀、麻即今油麻、中国有四稜六稜者、張騫従外国得八稜黒種、故又曰胡麻、是始より麻てふ者ありしお、胡地より獲しが色黒く子太かりしほどに、胡麻と名けしなり、天工開物雲、胡麻即脂麻、相伝、西漢始自大宛来、古者以麻為五穀之一、若専以大麻当之、義凱有当哉、窃意、詩書五穀之麻、或其種已滅、或即菽粟之中、別種而漸訛其名号、皆未可知也、しかるに大和本草に、上世に五穀の一とせし麻は、あさのみ也、胡麻にあらずとは、胡麻は胡国より来るとあるに嫌へる歟、大麻の実も穀になして食ふべきにあらず、凡かの書中に、本邦従来所有の物お、動もすれば舶来の種となせるもあり、見む者なまどひそ、