[p.0658][p.0659]
庖厨備用倭名本草
二/麻
胡麻 倭名抄にごま、多識篇同じ、考本草、一名巨勝、古は中国たヾ大麻あり、其実お蕡と雲、漢使張騫はじめて大宛国より油麻の種お得来りてうへたり、故に胡麻と名づく、昔胡地にありし時は、甚だ大なりつるが、中国に入しより小くなる、或雲、本は胡地に生じて、形体麻に類す、故に胡麻と名づく、八穀の中に最も大にすぐれたり、故に巨勝と名づく、遅早二種(○○○○)あり、黒白赤三色(○○○○○)あり、其茎皆方也、秋白花お開く、又紫艶お帯たるもあり、節ごとに角おむすぶ、長さ一寸許、四稜六稜のものは、房ほそくして子少し、七稜八稜のものは、大にして子多し、胡麻は夫婦して種おまけば、即ち生じ茂盛す雲雲、胡麻、味甘、性平、毒なし、傷中虚羸なるによし、五内お補ひ、気力おまし、肌肉お長じ、髄脳おみたしむ、久服すれば身軽くなりて老せず、筋骨お堅くし、耳目お明らかにし、飢渇にたへ、年おのぶ、五臓おうるほしやしなひ、肺気お補ひ、心驚おとヾめ、大小腸お利す、寒暑にたへ、風湿気おおび、旋風頭風によし、傷寒温瘧大吐の後、虚熱ありて、おとろへつかれたるにもよし、産おもよほし、胞おおとし、産後におとろへつかれたるにもよし、風病お生ぜず、風病ある人久食すれば、行歩たヾしくなり、言語よくなるべし、白油麻、味甘、性寒、毒なし、虚労お治し、腸胃おうるほし、風気おめぐらし、血脈お通じ、頭上の風おさり、肌肉おうるほし、食後に生にて一合啖て、終身とヾむることなかれ、又乳母是お服すれば、咳子永く病お生ぜず、元升〈◯向井〉曰、右白油麻は脂麻と本草にいへり、常に油お取ごまなるべし、近年阿蘭陀外科の薬品に用ふる麻子は、常の大麻子にあらず、其かたち瓜のさねの如くにてちいさく、胡麻より三四倍も大なり、其色灰青色にして滑也、是大宛国の麻子、倭漢の胡麻なるべし、