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農業全書
十/薬種之類
地黄地黄是も四物湯六味丸等に入り、其外諸方に出たる良薬にて、医家多く用ゆる物なり、土地にあひたる所にては多く作るべし、たねにする根お収め置事、冬月掘取たる中にて、甚大きも宜しからず、もとより小きはあしヽ、中ほどなるおえらびて、壺にても桶にても、又わらのふごにても、細沙お入れ、地黄おいけ置、風ひかざる様にすべし、猶かはきたるは痛むゆへ、肥たる沙お多く入て厚くおほひ、屋の内に置て、折々乾きて痛むや否やお見て、又もとのごとく収めおくべし、うゆる時分は三四月よし、寒中より耕しこなし、糞おもうち、さらし置たるよし、若冬よりこしらへ置たる地なくば、早麦の跡もくるしからず、畦作りし、六七寸間お置て横筋お切、となりのかぶと、ぐのめになる様に、ならびは四五寸あてにうへ、土おおほひ置て、生付とひとしく、何糞にはかぎらず多く入べし、其後がんぎの高き所お、左右へかきわけ、馬屋糞お入べし、なくばあくたにても多く入おくべし、此時は培ふに及ばず、初め苗の小さき時、二三度も根の廻りおかき、わきの土おもみくだき、一科つヽ懇に培ふべし、始終畦の中に草少もおくべからず、掘とる事は、十一二月の間、すきか鍬お以て、根に当らざる様にほるべし、鉄お忌物にて、すきくはの当る事お甚きらへばなり、さて浄く洗ひ、筵などに攤げて、よく干あぐべし、干かぬる物にて、春までも晴天には毎日出して、中まで黒く成たるお見て、収めおくべし、大和にて作る法の大抵是なり、肥たる性のよき黒土よし、大和地黄のすぐれて大きは、一斤の代銀二両許に薬屋へうると雲なり、