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大和本草
七/花草
菊 順和名にかはらよもぎと訓ず、但それは野菊(○○)なるべし、旧歌にはきくとよめり、蘇我菊と雲は、八雲抄に黄菊(○○)なりといへり、上代には未中夏よりわたらず、故に万葉集の歌には菊お詠ぜず、其後わたりしゆへ、古今集にはすでに詠ず、〈◯中略〉今案にひとえなる黄花に、すぐれて甘き菊あり、是薬に用る真菊(○○)なるべし、又冬菊(○○)は寒菊と雲、単にして味甘し、又重葉の小菊(○○○○○)、黄色にして味甘く、秋冬堪寒て久しくあり、もろこしには菊の花一本に多きおこのめるにや、範成大菊譜序曰、至秋則一幹所出数十百朶といへり、唐絵にかける菊も花多し、日本の好事の者は、一茎隻一花おつく、故に花大なり、菊に細子あるものあり、種之生ず、白菊(○○)は大なれども味甘からず、凡菊の葉春夏及秋の初まで、わかき葉は久しくゆびきて食ふべし、脾胃虚瀉の人には宜からず、菊の葉お乾して茶とし服す、色も香も好と、中華の行厨集と雲書にあり、花も甘きは生にても乾ても食ふべし、苦きは不可食、胃気お損ず、野菊は山野に多し、性あしヽ不可食、