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草木育種
下/薬品
菊(きく)〈本草〉 菊の類は実ばへにて、年々花形変故その数お知ず、花鏡雲、如劉蒙泉菊譜、遂有一百六十三品、範至能、史正志、馬伯州、王藎臣、皆有譜、其名目至三百余種雲々、菊の実お蒔には、山の野土の肥たるか、又黒ぼくにもよし、湿地お嫌也、高き所にて相応の土に肥土お合、代(しろ)お拵、其内へ二月初に蒔、其上へ藁の至て細き蔯(ごみ)お少し振かけ、雨覆おして置、生て後覆お取べし、植る地は冬中、野土或黒ぼくの内にて、菊お植ざる肥地お掘、その上へ人糞お澆、よく切まぜ寒にいてさせ置、又人糞お入、右の如すること三度にして雨お除置、二月比墾(こなし)て日にさらし植る也、根分は九十月比、根もとより出たる芽お分とりて別に植て、蘆簾お低かけ霜お除置、春にいたり清明の頃に植、猶花壇へ瓶(つるべ)の大さに星お掘、其中へ右の肥土へ鳥の屎と、烟草の茎お切まぜて、星一つに菊一本植べし、又六七月の間に一度糞汁お根廻へ入たるもよし、肥お多く澆ば葉枯るもの也、菊譜雲、養花易、養葉難、又曰、糞水葉に著べからず、泥あれば洗べし、又曰、以韭汁澆根妙、又清明の頃分植るもよし、何も旧根およく去べし、宿根より虫お生るゆへなり、菊経曰、死蟹醸水澆潅不生莠虫、花鏡雲、魚腥水去蛀、蚯蚓地蚕傷根、以石灰水潅之自死、速将河水連澆、以解灰毒若黒蚰瘠其皮、以麻裹筋頭、寽之則出、若象幹虫〈似蚕青虫与葉一色〉食葉須早起以針尋其穴刺殺之、菊薬に入ものは甘菊(りやうりきく)、野菊等なり、花お賞するは、中菊大菊なり、其中菊の作様は、扇造、帚造、色々あり、根お曲ざるは、早く梢(ほ)お切て枝おふかせ、五六月迄は切てよし、夫より一枝に花一つ著、其外の枝莟は皆摘去べし、初より竹或は葦おそへ、琉球席のほつしにて結付てよし、是は帚作なり、又根お曲て作るには、茎お土へ伏て、竹の枝お以て挟、土へさし込て止るなり、是は扇作なり、又大菊などは四五月頃雨天のせつ、勢よき梢又幹お管に切て、肥土へ挿、根お生じて人糞汁お澆ば、甚よく肥て花大に咲ものなり、夏菊は八月根お分植てよし、寒菊の類皆秋分るなり、又ふだん菊は夏より冬まで花咲ものなり、総て菊の手入は大概おしるすゆへ、必是に止ず、漢土の菊の類は菊譜に見へたり、又植様は種樹書に見ゆ、