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草木六部耕種法
十/需花
菊は品類極て多く、其名目勝て記載すべからず、何となれば菊は其種子お蒔て生じたるは、其花形色種々に変ずる者なるが故なり、凡そ菊は培養おさへ懇到にすれば、実お蒔も、幹や枝お挿も、葉お挿も、皆能く活者なり、故に珍花お世に弘ずして秘蔵するには、其菊お栽たる処に、人の近寄お禁ずべし、若夫葉お盗採するときは、直に挿て活ものなるお以てなり、凡菊お作るには、高燥の地お良とし、湿地に宜からず、菊の実お蒔には、春分頃に山野土か、黒松土かお三荷と、臘土一荷の割に調合して代お補理ひ、種にする花お小便灰と能く揉合て蒔き、其上に厩肥の蒸朽て、細き紛と為たるお、一二分篩掛て、苫か藁筵の類お雨覆と成し、芽の生じたる後に覆お取除べし、菊の植地は、花お食料か薬科にする菊お作るには、甚く培養お心配するにも及ばざる事なれども、花の美麗お賞覧すべき大菊中菊お植るには、別段に精細お尽して作るに非れば、絶世の名花お得ること能ず、故に絶倫の珍花お作り出すには、高燥なる土地お撰び、先づ其地の深三尺許も堀上て、前年十月頃に理肥(うめこえ)すべし、乃ち古畳か或は腐たる菰筵お用て宜し、其上に野土か黒松土お置て細に砕き、寒中に人糞お澆て耕交へ、雨の漏ざるやうに能く覆おなし、都て三度糞お澆て、寒に翻花(はぜ)させ置き、翌年春分後に至て、又把して大陽に晒し、花壇お造て、三月上旬より植べし、又根お分んことお欲せば、九月十月の頃に、根傍より出たる芽お分け採て別畠に植え、能く霜覆お為し置て、三月此お移し植ること、実生の苗も異なること無し、凡そ菊お植るには、理肥せざる花壇にても、深一尺二三寸、広八九寸なる穴お穿り、臘土八斗、鶏屎二斗、烟草茎粉二斗、馬糞二斗、混合たるお置て、其中に一本づヽ植て、既に四五寸に長たる頃より、時々盛養水お薄くして、根本に澆ぐときは、茎葉共に茂り、花も甚盛なる者なり、凡そ菊は花お養ふは易く、葉お養ふは難しと雲ひて、花葉共に盛なるお古来珍重す、糞水の葉お汚すことも、泥土の葉お穢こと甚禁忌なり、時々清水お以て能く洗ふお法とす、〈◯中略〉春分頃に菊花お開しむるには、秋分に根お分て盆に栽え、冬より早春までの間は、塘窖の中に養ひ置ときは、春分前に花お開く、夏菊も秋分に分け植べく、寒菊は九月初に分つべし、常盤(ふだん)菊は四時花あり、此亦秋分に分け植べし、凡そ菊お移し植るに、旧根おば悉く除き棄べし、宿根お交植るときは、旧根より虫お生じて、繁栄すること能はざるに至る、菊お作るには、虫お殺すも亦一箇の労なり、