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菊譜
菊譜序我社中の花お論ずる事、甚至れり、花もまた奇功お極て甚妙なり、目も至り花も妙々なるに随て、花お論ずるの品位足らず、因て此秋は位お増し、菊重の陽数にとりて九段に極め、天真神奇には真褒お加へ、絶倫亦褒の字お加ふ千百年の下にも、如斯花はあらじといへるに当りて、其妙品おおヽべしと、誠にかりの位お設け、花は天真に極るといへるも、此事ならずや、宝暦十一辛巳年九月 菊翁述菊の位(○○○)一位 諸々の花にくらぶるに、自然に立上りすぐれたるもの、一体の揃たる是お位と雲ふ、牡〓は花の富貴と雲、喜久は隠君子と雲ふのたぐひに似る様にして、花の一体の上お雲ふなり、二品 玄妙は玄妙の品、天真は天真の品ある類ひ、おのづからけ高〈く〉見るお雲、形手強し、透艶これ全く花の姿の上お雲ふなり、三輪 大輪なるかた最上なれども、中輪にても釣合能く、大輪に立ならびてもおとらぬお取るたぐひ也、あながちに輪の大輪にも限らぬお雲、四色 紅黄紫樺に限らず、くつきりとして勝れて能きお上とす、たとへば白もうつり白より雪白と雲ふは格別なり、五艶 色能くとも光りつやなければ、おのづから位品共に落るもの也、六透 葩の間壱枚壱枚にわかれて見ゆるお雲、かさね多く重ねてかためなるは、賤しきものなり、七受 一輪の花形の釣合お持、うけ込かヽへるこヽろ也、花形の正しきお雲、しまりの能きといへるも、大かたは請によるなり、