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嬉遊笑覧
十二/草木
白石が洞巌に答る書、大菊はやり候由、当所亦同事に候、去々年歟、加賀の小瀬復庵の二十韻古風お両度和し候詩有べく候、北地も同風と見え候、水戸安積よりも此程菊は作り覚え候など、自讃めされ候て、御申越候などあり、かヽれば当時国中ゆすりて、此菊お玩びしなり、〈◯中略〉享保のころ、菊合の会はやりたり、雅筵酔狂集に、近世この花はやりて、新花お作り出し菊合の会おしける、其会おほくは丸山にて催すなり、我やどの東の籬菊とりてはるかにみやる露の丸山、艶道通鑑に、八重九重のきく合、もよりにまかせ好類(あひかた)につれ、東山北野につどひて、輪おきそひ葩おあらそふ、鼻冗(ほこつ)きて席に尻のつかぬは、今日の花軍の魁け人と見え、頭おかたぶけて縁にたばこのむは、跡扁の一の筆と推せらる、かの舞姫が管咲に針咲つけて、裳まで忍び通ひ路、あけぼのや〈これら菊の名なり〉雲々、さくら牡〓つばき菊、色々の手入して、枝おため根おゆがめて、狂ひ咲おたのしむは、古人のかたわものおとのそしりに落入べし、わけて菊そろへの席おみるに、一本々々枝たおやかにもせず、葩一つ切生にしたるは、美女の獄門みる心地し侍るとあれば、近時の朝貌会などのごとし、東京夢華録、九月重陽都下賞菊有数種雲々、酒家皆以菊花縛成洞戸雲々とあり、これは大菊にて作るなるべし、