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琴後集
十/記
蓬が杣の記あるじ〈◯晃海〉のいへらく、〈◯中略〉われ此やどりお蓬が杣となん名づくといふ、〈◯中略〉かの長能の朝臣のそしりおば、いかにことわるべきぞといふとぞ、おのれ〈◯村田春海〉こたへけらく、そはものになづみたるぬしかな、かの朝臣のうけひかざるは、耳なれぬ詞おいとふにこそ有けらし、されどかならずさることヽのみも、さだめがたきよしあり、そも〳〵歌の詞にいひふりて跡あることヽ、あらたにつくり出ていひそむることヽの二つあり、蓬が杣とはあらたにいひそめたる詞にて、古き跡によりたるにはあらず、そは蓬のしげう立るが、杣山の木のむれたるに似たれば、たとへていふなり、かの天つ星の数多きおあふぎて、星の林となづけ、みねの岩ほの並たてるおみて、岩垣といふらん、みなおなじたぐひなるべし、〈◯下略〉