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農業全書
四/菜
悪実牛蒡は細軟沙の地に宜しとあり、山ごみの雑りたる細沙、いか程も深く底まで一色にして、土性よく重くしてつまりたるおよしとす、八幡などの土ごヽろ是なり、畠お掘うちにする事、深さ四五尺、糞おかくる事多きおよしとす、幾度もうち返し、底まで塊少もなくすべし、埋糞はわかき草木の枝葉、又青松葉お小枝ながら埋みたるは、牛蒡のにほひよく、風味ある物なり、さて上お数遍かきならしうね作りし、横筋にても又ちらし蒔にても、薄くむらなく蒔て、こえおうち、土お覆ふ事、五分ばかり、凡たねお一段に一升の積りにて蒔お、中分とする也、但きりむし多き畠ならば、少は多く蒔べし、又種子おほひお灰にてし、其上に土おおほひ、上お鍬のひらにてたヽき付おくべし、さて二葉より心葉出るとひとしく、間引てむらなくし、若一つ穴より二本生たるおば早くぬき去り、一本宛にすべし、芸り細々中おかきあざり、草少もなくすべし、牛蒡は取分草に痛む物なり、さて糞は鰯のくさらかし、桶こえもよし、其外水糞にても、始終たえ間なく用ゆべし、冬掘取までも、糞お用ゆれば、味よく和かにしてふとし、少き時は糞に痛むゆへ、葉に少もかヽらぬ様にわきよりかくべし、又雲、牛蒡はうるほひお見て蒔べし、若雨なき時ならば、水おそヽぎてうゆべし、さてほり取事は、十二月までも置たるが、根よくふとるものなれど、寒気つよき所か、又は跡の地、麦おまくか、急用あらば、霜月早く掘べし、又牛蒡お作る上田にて、利の多き所は、いふに及ばす、よく根入ておそく掘取べし、同じくいけ置事、茎葉お其まヽ置ながら、大小長短おえり分、一尺廻り程にたばね、湿気なき所に穴お深くほり、頭の方お上にして、穴の中に竪にならべ、葉は外に見ゆる様に入、土おおほひおくべし、穴に水入ば損ずる物なり、自分の料理に用ゆるは、たばねずして埋おき、用にまかせて、端よりぬき取べし、いけたる上よりも、肥たる土おおほひ置ば、穴の中にても、やしなひとなりて、肥て牙脆く味もよし、又種子にするおば、うへ付にし置て、春に成て糞おも少々かけ、虫付ば取去べし、朝露に灰おふるひかけたるも、虫のく物なり、七月かれて子の色黒く成てかりとり、もみくだき粃お簸去て、箱か袋に入おきて、二月早く蒔べし、是先つねに定りたる蒔時分なれども、冬より地ごしらへし置て、正月早くまきたるは、夏早根に入ゆへ、菜の絶間に出来てめづらし、されども早過たるは、間に木牛蒡に成て、味も思はしからぬ事もあれば、二三月蒔て、虫のいまだ地に生ぜぬさきに、生長する心得するも、一つの手立なり、寒気の和らかなる所は、冬より蒔もよし、総じて牛蒡はいつ蒔ても、少々根の入ぬ事はなきものなり、〈◯中略〉又牛蒡大根麻などは、いや地お嫌はず、却て旧地およしとす、毎年同じ所にうゆべし、同じく種子お取おく事、八幡牛蒡のたね、其外よきたねお求て作るべし、よきたねは、内に筋もなく、牙もろくにほひあり、味甘く和らかなり、又去年の古たねよし、当年の実は蒔ても生ぜず、たとひ生じても、こはくして料理にならず、たねにする物、冬掘取て、大根のごとくうへおきたるもよし、其まヽうへ付置たるもくるしからず、