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農業全書
六/三草
紅花うゆる地の事、土性極めてよく光色ありてうるはしきは、作れる花の色もよく染付よし、黄赤黒の土の猶肥良なるおえらびて作るべし、高き田の性よきは猶宜し、夏より数遍耕しさらし、糞おうち熟しからし置たるに、霜月の初申の日蒔べし、又八月地およくこなし畦作りし、筋お切、たねお酒に浸す事一宿、灰糞やき土にて、たねお合せ蒔べし、さのみ厚く蒔べからず、苗二三寸の時、中うち芸り、人糞ならば、いかにも久しく枯たるお以て、葉にかヽらざる様にわきよりかくべし、苗ふとりさかへては、人糞は雲に及ばず、新しくけがらはしき糞お用ゆれば、さきまがりて花房とならぬ物なり鶏の糞又は糟鰯にても、苗のちいさき時に多く用ひて、中うちさい〳〵して芸り培ひ、うすからず、厚からず、よき程に間引立て、四五月朝いまだ日の出ざるに、花よくひらきて、わきにたるヽお見てつむべし、ひらきてもいまだ色黄にして、わきにたれざるはつむべからず、摘取ては、ざつときざみ臼にてつき、清水に漬てやがて取上しぼり、何にてもきれいなる物にひろげ、草の葉おおほひ、日風も当らざる所に二三日もおき、少色付、白かびの出るお見て、餅に造り日に干べし、又出羽の最上にて花お作る法あり、異なる事なし、是はつみ取て清水に漬、やがて取上てしぼり、筵に攤げ物おおほひおきて、少ねたる時、餅には造らず、其まヽ乱れ花にして、干上げ箱に入おくなり、苗の時間引て、ゆがき菜にし、食するに其性よく、味もよし、市町近き所にては、園菜とし、少厚く作りて、段々間引取て売ても、利なき物にあらず、又実お多く収め置て、灯油に用ひ、勝れて光もよく、油多き物なり、又紅花は苗より念お入、いか程心お尽しても、卒爾に糞お用ゆれば、忽ち先曲りくせ付物なれば、下地おなる程よくこしらへ、糞お多くうち、さらし置、蒔時鶏糞など、其外よく枯たる糞お灰に合せ、下にしきて蒔べし、後は草かじめ中うち培ひ間引立て置べし、土地に相応し、肥地に多く作りては、勝れて厚利お見る物なり、地心お能えらぶべし、又子お牛に飼たるもよし、