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重修本草綱目啓蒙
十/湿草
漏盧 くろぐさ ありぐさ〈古名〉 一名北漏〈衛生宝鑑〉 伐曲大〈郷薬本草〉 純穀大〈村家方〉 漏蘆蒿〈外台秘要〉集解に説ところ品類多し、先師七種(○○)の弁あり、熊谷氏述て漏盧考証お著す、その七種は恭の説に俗名莢蒿(○○)と雲は、即釈名に鬼油麻と雲、時珍の説に真の漏盧と雲もの也、和名ひきよもぎ(○○○○○○○)、一名よもぎもどき、浅山向陽の地に生ず、苗高さ二三尺、葉は艾葉に似て小く薄く、花岐多くして毛茸あり、黄緑色にして微紫お帯ぶ、背に白色なし、皆両対して密なり、六七月梢の葉間ごとに花お生ず、腐婢(あづきのはな)に似たり、大さ二三分、黄色花下に細房あり、長さ五六分、形円にして竪に数稜ありて、胡麻房(ごまのさや)の如にして小し、故に鬼油麻の説あり、馬志の説に、似油麻房と雲もの之お指なり、房内に小子多し、罌粟の子より小なり、八月に至り苗枯れ黒くなること、衆草に異なり、弘景蔵器の説は、共に木藜蘆(○○○)なり、毒草類に本条あり、俗名はなひりのき(○○○○○○○○)、北国にてあくしよぎと雲、小木なり、容の説に単州者と雲雲、単州漏盧(○○○○)は和名ひごたい(○○○○○○)、大和本草には平江帯と書り、唐山より此種渡りし時、此名お書来りしと雲り、然れども唐山の書にて、未此名お見ず、花戸にては肥後台と雲、苗は春宿根より叢生す、小薊(のあざみの)葉に似て大にして厚く刺なし、長さ二尺許、背に白毛あり、夏已後茎お抽こと高さ四五尺余、小葉互生す、初秋茎頂に花あり、藍紫色の小花数多簇りて毬おなす、形正円にして山芹菜(なべなの)花毬の如く、下に蕚なし、大さ寸余、世人多く七夕の瓶花に用ゆ、古よりたまぼうきお以て単州漏盧に充つ、穏ならず、たまばうきは山野に多し、葉は敗醤葉に似て長大なり、又紫藤(ふぢの)葉に似て花岐あり、一根に叢生す、茎お抽づること高さ三五尺、葉互生す、秋に至て枝頭ごとに花お開く、小薊花に似て紫色刺はなし、漢名詳ならず、斤州者花葉頗似牡丹雲雲、斤州漏盧(○○○○)は即牡丹葉漏盧なり、秘伝花鏡には秋牡丹(○○○)一名秋芍薬と雲、和名きぶねぎく(○○○○○○○)、〈京〉かうらいぎく、〈讃州〉八朔牡丹、〈長州〉あき牡丹、〈相州〉かはぎく、〈〓州〉かヾぎく、〈泉州〉とうぎく、〈大和本草〉紫衣ぎく、〈三才図絵〉はまぎく、〈常州〉しまぎく、〈越後〉むめうさう、〈南部〉さつまぎく、〈濃州〉かぶらぎく、〈加賀小松〉かぶろぎく、〈勢州山田〉しうめいぎく、〈同上久井〉くはんのんぎく、〈播州林田〉らんぎく、〈同上立野〉からぎく、〈越前〉くさぼたん、〈江州〉山中渓側に生ず、人家にも栽ゆ、甚繁茂す、城州には貴船山中に自生多し、故きぶねぎくと雲、春宿根より葉お叢生す、形三枝九葉にして、大抵牡丹葉に類し、尖りて毛茸あり、夏月茎お抽こと三四尺、八九月に至り枝頂ごとに一花あり、形菊花の如く二三重なり、大さ一寸余、初は紫紅色後は色淡し、背に白毛あり、花中に黄小心あり、花後実お結ばず、冬に至て苗枯る、春に至れば根鬚の末、皆苗お発すること、金沸草(おぐるま)の如し、秦州の者花似単葉寒菊紫色雲雲秦州漏盧(○○○○)は即釈名の野蘭にして、即救荒本草の六月菊なり、和名のしゆんきく略してしゆんきくと雲、同蒿と同名なり、雞児腸の種類にして深山に生ず、人家にも多く栽ゆ、枝お〓してよく活す、葉は雞児腸葉より闊くして深緑色、茎紫黒色、三月に花さく、単弁にして淡紫碧色、雞児腸の花に異ならず、又白花もあり、海州の者花紫碧如単葉蓮花雲雲、海州漏盧(○○○○)は綿頭漏盧にして即山草類の白頭翁なり、和名ぜがいさう、時珍の説に、飛廉一名漏盧雲雲、飛廉漏盧(○○○○)は即次の条の飛廉なり、以上七種の漏盧の内、真の漏盧単州漏盧は苗の枯れて黒きお以て名く、秦州漏盧は茎幹の紫黒色なるお以名く、木藜蘆、斤州漏盧、海州漏盧は根の黒きお以て名く、漏盧古より漢渡なし、 本邦市人舶来遠志の中より根形粗大なる者お択出し、漏盧と名け售り来れり、直根にして淡黄色、此者決して遠志に非ず、明和六年己丑の頃より、舶来の漏盧お京師に売る、即遠志中より択出者に異ならず、根の長さ五寸許、皆蘆頭に鬚あり、偶枯葉のつきたるありて、諦視するにひごたいに異ならず、故に単州漏盧おたまほうきとする説お改てひごたいとす、