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重修本草綱目啓蒙
九/芳草
沢蘭 さはあらヽぎ(○○○○○○)〈延喜式〉 あかまぐさ(○○○○○)〈和名抄〉 さはひよどり(○○○○○○) 一名醒頭草〈握霊本草〉 煎沢草〈典籍便覧〉 九畹菜〈輟耕録〉 小沢蘭〈集解時珍説〉 千里吉〈福州府志〉 爾酣〈月令広義〉山中渓澗或は池沢の傍に生ず、蘭草及山蘭に似て小なり、葉も亦相似て狭く小し、茎微く方にして毛あり、苗高さ一二尺秋に至て花お開く、形亦相似て小く、淡紫色白色の二品あり、古来沢蘭おしろねと訓ずるは穏ならず、しろねは、一名ふしぐろのこぎりさう、〈能州〉むらたち、〈播州〉あぜこし、〈雲州〉ひともとぐさ、〈加賀〉湖辺及び水傍に生ず、春宿根より苗お生ず、方茎葉両対す、節紫黒色、葉細長く、闊さ八分許、長さ三寸許にして末尖れり、周辺に粗き鋸歯あり、毛茸なし、切れば香気あり、蘭草の香と同からず、秋に至り茎三四尺、葉の間ごとに五弁の小白花お攅簇す、薄荷花に似たり、根は白色方にして長く傍引す、故にしろねと名け、雲州にてあぜこしと呼ぶ、其行根の止る所に苗お生ず、根鬚〓に下れば行根腐ちて別の窠となる、その巨なる根お取り、粃塩に蔵て香の物とす、又煮て食ひ或は湯(すひもの)となし食ふべし、地笋の名に合に似たれども、此草根の色白し、故にしろねと名く、蘇容の説に、沢蘭の根紫黒色と雲に合ず、且此草は茎葉に毛なし、葉尖微有毛不光潤と雲に合ざれば、しろねの沢蘭に非ざること知べし、しろねは救荒本草に載する所の地瓜児に充つべし、又蘭草に大沢蘭の名ある時は、沢蘭も蘭草の状の草なること知べし、唐山にてもしろねお沢蘭に代用する故、それに倣て和にもしろねお用ひ来るなり、又一種しろねの小者あり俗にさるだひこと称す、山中に多く生じ、花葉形状並にしろねに同じ、唯小きお異とする耳、