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冠辞考
四/佐
さきくさの 〈なかみつ〉三枝の事は神祇令に、三枝祭〈義解雲、謂卒川社祭也、以三枝華飾酒樽祭、故曰三枝也、〉また姓氏録に、顕宗天皇御世雲々、三茎之草、生於宮庭、採以奉献、仍負姓三枝部造雲々、治部式に福草、〈瑞草也、朱草別名也、生宗廟中、〉和名抄に䓪〈音娘、和名佐木久佐、日本〓、私記雲福草、〉草、枝々相値、葉々相当也と、日本紀の人の名にも福草と書て、さきくさと訓たり、これらお以て思ふに、福草なることは明らけし、されど右の式と和名抄にいふは、他の国の意にて、かしこにもこヽにも常ある草にあらず、然れば年ごとの卒(いさ)川祭に用る三枝(さきくさの)花は、さゆり花なるべしといへり、さゆりは一本の末に三つの枝ひとしくわかれて、茎の朱に、葉の相当れるてふにも近ければ、かの福草に擬て用るならんと覚ゆ、〈◯中略〉其祭も四月にて由利の咲比なれば、かた〴〵かなふべし、これに依ばかの御庭に生けんも由利なりけんか、