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農業全書
五/山野菜
菌栭くさびら、きのこの類、是おほし、山林幽谷に立ながら枯、又はたおれたる朽木などに、自ら生ずる物なり、椎かしなどに生ずる物人に毒せず、此外の木に生るは、みだりに食ふべからず、又園に作るは楮の木、同葉の肥たるお、湿地の風の吹すかさぬ所にうづみおき、常に米泔おそヽぎ、うるほひお絶すべからず、五七日過れば必菌生る物なり、又畠のうねの中に糞お多くふり、楮木お五七寸に切、うちくだき、菜おうゆるごとくにならべ置て、土おおほひ水おそヽぎ、ながくうるほひお絶さヾれば、先初は小き菌生じ、漸々に大きなるが生ずる物なり、もと楮木なれば毒にならず、又椎の木の中まではいまだくちず、皮はありて、大かたくちたるお、日かげの風の吹すかさぬ所に、横にねさせ置、むしろこもおおほひ、上より泔水お頻りにかけ、しめり気お絶さずし置ば、椎蕈多く生ずる物なり、他の朽木にも蕈は生る物なれど、木の性によりて毒なり、五木と椎橿は毒なし、桑槐楡柳楮五木是なり、此外榎木に生ずるは、常に用ゆべし、又楮の古かぶに成て、わか立出ぬあり、是お切て肥地に埋みおけば、菌多く生ず、泔水などかけおくべし、久しき楮畠に多きものなり、