[p.0844]
甲子夜話
五十九
伊沢辞安〈福山侯の医、博学の人、〉が話に、抹茶はよく諸毒お解す、明礬も亦同じ、或とき某の寺内に竹林ある処蛇多く栖む、其地に蕈生じたるお、三人して採食ひければ、即時に大腹痛して悶乱す、その中一人は恒に豪気なるものゆえ、彼の邸までは還り吐血しながら、辞安が所に到り治お乞ふ、安これお聞て、抹茶に明礬お合て服せしめしかば、吐血は止で瀉血せしが、遂に腹痛歇て、尋で平愈せりとぞ、奇効の物なり、