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雨窓閑話
観世一代能の事〈并〉木賊刈の事百姓共申すは、我等事は信州のその原と申す所の土民に候、今日木賊刈の能興行有るよし承り及び、我等も木賊かる者共なれば、なぐさみながら見物して、〈◯中略〉心なき賤の我々どもヽ感心して、面白く侍る、去りながら隻今遊ばされたる内、いで〳〵とくさからうよと申す所、鎌の御手、我等がしなれたるとは、聊替はりある故、申す事にて候といへば、観世の曰く、それはいと面白き見咎めやうなり、いかにして女等はかるかと尋ねければ、さればとくさはむかふへ一刀切りにかり申し候に、今遊ばされたるお拝見いたし候へば、同じ所お前の方へ二刀にて、御かりなされ候お見申して候、あれにてはとくさはかられ申すまじく候と雲ひければ、〈◯下略〉