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円珠庵雑記
こけおひかげといへど、なべてみないふにはあらず、ひかげおまたかげともいへり、万葉にみえたり、真淵(〓頭書〓)雲、ひかげは深き山などのきにかヽれる、猿おがせてふものなり、万葉に松のこけとよみしもこの事なるべし、さるお契沖は磐木の下の地などに、長くはふ苔のあるお、それなりと思へるよし、あるものに書きたり、そは誤なり、和名抄、祭祈具、蘿蔓〈和語雲、比加介加都良、〉同苔類、蘿〈日本〓私記雲、蘿比加介、〉女蘿也、松蘿一名女蘿、〈和名万豆の古介、一雲、佐流乎加世、〉宣長雲、万葉十四に、夜麻可都良、加気麻之波爾母、衣可多伎可気乎、これに加気とよめるもひかげなり、二に山蘰影爾所見作とあるも、山かづらお枕言として、影はひかげの意につヾけたるお、この十四の歌にて知るべし、