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庖厨備用倭名本草
四/水菜
石蓴(せきしゆん/こも) 倭名抄にこも海蓴の二字も用ふ、〈蓴与蓴同〉多識篇案にして、考本草南海石に附て生ず、茎の長さ二三寸いろあおし、涎滑ありて脂の如し、又光瑩にして水晶の如し、葉の間に椏あり、椏中に花あり、形円にして豆の如し、其葉銭より大にして巻たり、慈姑の葉の如し、薑豉にて享て甚だ美なり、昔張翰が思し蓴鱸の蓴は即是也、元升〈◯向井〉曰、西国にこもと雲海草あり、其の様本草の説のごとし、こまかにきざみたヽきて、しやうゆう、さかしほにて調れば、ねばりなめらかにして脂の如し、しやうがくるみなどきざみ入て甚美なり、山薬のとろヽ汁にまされり、されば石蓴はこもなることうたがひなし、多識篇あやまれり、又こもの長じて老たるは、色変じて紫になる、正月のかざりに用ふるほだはらは、此こもの老たるなるべし、