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数学類聚

本朝の商家に、足袋お粥ぐお見るに、一種の物さし有り、十分お一寸として、十寸お一尺とする也、其一寸おば一文と唱ふ、何其殿の足袋は九文なり、又は九文半也、或は九文六分也、七分也など雲て、彼ものさしにて、九寸、又は九寸五分、あるひは九寸六分おさすなり、其物さしの長さお見れば、曲尺の八寸ばかり也、或人医法の骨度同身寸より出たる尺也と雲ふ、按ずるに同身骨度ならば、何人にても、一尺ならば一尺にて、外の寸はあるべからず、大兵も一尺、小兵なるも一尺にて有べし、大兵小兵に拘らず、誰れも々々々、九寸なりとも十寸なり共、一色に定るべし、是は其人々の骨髄、或は乳のひらき広さ、目の間だ、指の節の間などより割り出して、短きも一寸、長き も一寸と、其人々の大兵小兵に随ひて、一寸に長短お為すゆえ、背の何所の寸は誰にても四寸は四寸と定め置、又足の何所々々の寸は、誰にても何寸也と定めて違ふ事なし、既に其人々の臂に競べて、足袋お作ると雲ふ事あり、是らこそ同身寸とも雲べけれ、先に物さしお一種こしらへ置て、大兵小兵、其人々に随て、寸の数に多少有るは、骨法と雲ふにてはなき也、此物さし曲尺にて八寸計りあるうちへ、十分十寸お置たるお以て見れば、前の夏の尺なるべし、かの黄鐘管の長さ也、唐の武徳四年に銭お鋳る、開元通宝是なり、此銭は今援にあり、日本の秤にて、重さ一匁目有り、又日本曲尺にてわたり八分有り、十銭並べて八寸有り、曲尺の八寸は夏尺の一尺也、曲尺八分は夏尺にて一寸なり、然れば此開元銭一文は、彼物さしにて一寸なる故、一寸お一文と唱へて、足袋お商ふと見へたり、開元銭のわたりに合ふ故のことば成べし、