[p.0031][p.0032]
数学類聚

本朝流俗に菊ざし(○○○)と雲ふて、一種の物さし有り、是は菊の花の寸おさす物さしにて、其長さお見るに、日本曲尺にて六寸余ばかりある也、或人是お陶淵明が用ひたる尺也、晋の尺也と雲ふ、又彭祖の用たる物さしにて、漢の尺也と雲ふ、淵明菊お集めて、花の隠逸なるお玩びしと雲ふ事有、陶淵明は大隠の賢人にて、虎渓に隠居して独り摘菊お楽しみし事は聞及ぶ也、是は野生の菊花お賞玩せし成るべし、花壇花欄に〓し、己れが作り立て、咲たる菊お、かの物さしにて、花のわたり一尺有か、或は一尺に一寸越えたか、二寸に至りたかなどヽて他人の持たる花よりも過分に大きなる事お悦びて、勝お得たりなどヽ自慢したる事は聞及ばぬ事也、又彭祖は灑県山〈江〉配流せられて、菊お友として、八百歳お寿せりと雲ふ事は、小児も知るなれども、是は周の穆王の枕おば持居たりしなれども、物さしお持たるは画にも見たる事なし、彼物さし、日本曲尺にて六寸余有るは、いかさま武王八寸お尺とすると雲ふ尺にて、黄鐘管の長さお五段として、段お捨たる尺有り、前に委く出しあらはしたる也、是夏尺の八寸にて日本曲尺に六寸四分なり、漢尺と 雲ふは誤なり、前に雲ふ如く、日本曲尺にて漢の尺おはかれば、八寸八分余に当る也、しかしながら証拠なければ、必ず武王の尺也とも定め難し、未【Kれ】考、