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太平将士美談
良将達徳抄所引
成瀬隼人正、領分の町人、米屋八郎兵衛といふもの親より富めり、隼人正領分になりたる後、政事正しく、人帰服しければ、自分親より二つ升おつかひ候て、此の如く富有になり候、此の如く御政事正しくなり候ては、大に恥恐て候、一日も早く白状に及び、御裁判お請たき由訴へけり、隼人正大に感歎せられ、親よりの無道お申し出、非お改め候に免じ、罪は申つけざる間、当年より七年の間、又穀類に二升おつかひ、自出す処は多く、人より取る処は少くいたし、外に呉服諸品類商売いたし候様にと申付らる、富める者なれば大に歓びて領掌しぬ、このこと他領迄かくれなく、此の店にて穀類お売買ふもの多く、呉服諸品も調ければ、却りて前々よりも 利倍多くなりて、ます〳〵富たりとなり、