[p.0054]
三種神符考
堀直格
この三くさの御寳の次第お、人々の心々さま〳〵にあげつらひまつれど、実は大御神〈◯天照大神〉の大御心お、いかで凡夫の身のはかなきさとりもて推量りまつるべき、既に雲如く、もとは三種共に、迩々芸命の皇御国おしらし給へるにつきて、大御神より伝へ授け給へる御璽にて、こは食国お保ち給ふに此神璽なくてはかなふまじき由の御言は、記〈◯古事記〉紀〈◯日本書紀〉共に見えずして、実は唯皇御孫命の天降ますにつきて、くさ〴〵の御品はいづれなるも天津神の作りましヽ物にて、又有難きくすしき御寳なれば、皇御孫おいつくしみおもほし給ふ御心より、五伴緒の神たちに添給ひて伝へ授け給へるなめれば、いづれお第一第二などきはやかなるけぢめはあらざるべし、されど強て試みに申まつらば、御玉御鏡御劔とも次第まつるべきか、然思ひとらるヽ由は、記紀共に句玉お第一に載たるか上に、記紀又共に岩屋戸の段に、御璁おば上枝につけられ、御鏡は中枝にとあるお思ひ合せて、上枝なる御玉お第一とし、中枝なる御鏡お第二とし、御劔は此二くさよりもやヽ後の物なる故に第三とはいへるなり、されどかくあげつらひまつるも、すべてうけばりていへるには非ず、後学猶考ふべし、