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平治物語

院御所夜討附信西宿所焼払事
去程に、信頼卿は、同九日〈◯平治元年十二月〉夜子刻許に、左馬頭義朝お大将として、其勢五百余騎、院〈◯後白河〉の御所三条殿へ押寄、四方の門門お打固、右衛門督〈◯信頼〉乗ながら、年来御いとほしみお蒙つるに、信西が讒に依て、信頼討れ進らすべき由承候間、暫の命助らん為に、東国方へこそ罷下候へと申せば、上皇〈◯後白河〉大に驚かせたまひて、何者か信頼お失ふべかなるぞとてあきれさせ給へば、伏見源中納言師仲卿御車お差寄、急ぎ召るべき由申されければ、はや火お懸よと声々にぞ申ける、上皇あわてヽ御車に召るれば、御妹上西門院も一つ御所に渡らせ給ひけるが、同御車にぞ奉りける、信頼、義朝、光泰、光基、季実等、前後左右に打囲て大内へ入進らせ、一本御書所に押籠奉る、