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太平記
三十
吉野殿与相公羽林御和睦事
足利宰相中将義詮朝臣は、〈◯中略〉一旦事お謀て、姑く洛中お無為ならしめん為に、吉野殿〈◯後村上〉へ使者お立て、〈◯中略〉君臣和睦の恩恵お施され候は、武臣七徳の干戈お戢て、聖主万歳の寳祚お仰奉るべしと、頻に奏聞おぞ経られける、是に依て諸卿僉議有て、〈◯中略〉御合体の事子細あらじとぞ仰出されける、〈◯中略〉二月廿六日、〈◯正平七年〉主上已に山中お御出有て、瑶輿お先東条へ促さる、劔璽(○○)の役人計衣冠正しくして供奉せられ、其外の月卿雲客、衛府諸司の尉は、皆甲冑お帯して、前騎後乗に相従ふ、〈◯中略〉皇居は、当社〈◯住吉〉神主津守国夏が宿所お俄に造易て、臨幸なし奉りけり、